朴念仁の戯言

弁膜症を経て

2018-01-01から1年間の記事一覧

尊厳を傷つける差別

伊波敏男著 ハンセン病を生きて 偏見や差別は人間の魂をそこなう。日本社会は長い間、ハンセン病の患者や回復者の人権を奪い、尊厳を傷つけてきた。伊波敏男(いはとしお)(1943年~)の「ハンセン病を生きて」は回復者の著者が自らの体験や若者との交流を…

東京大空襲の日 夫まさに間一髪

戦争の真っただ中でしたが、夫は旧制中学を終え、大学受験のため、伯父夫婦を頼って上京しました。食糧難の時代。宿泊するためには、食料を持参する必要がありました。それを工面するため、義母はたった一枚の銘仙の着物とコメを交換して、夫に持たせてくれ…

人に優しくして恩返しをしたい

私には自分との約束があります。それは「人に優しくする」ということです。私は小さい頃、体が弱く入退院を繰り返していました。幼稚園に行くことが難しかったため、友達と折り紙をしたり、ままごとをしたり、一緒に歌を歌ったりしたことがありません。毎日…

人生をつむぐ

1時間以上歩いたころ、営業しているドラッグストアを見つけた。なかに入って、コーヒーを飲んだ。コーヒーは沸かしなおしで、黒くて苦く―—薬みたいな味がした。まさにわたしが飲みたかったものだった。すでにほっとした気持ちだったが、今度は幸せな気分にな…

お隣の独居老人 覚悟の旅立ちか

一昨年の年の暮れ、お隣の独居老人が救急車の要請や警察、市の福祉課職員の呼び掛けにも応じないので、ドアの強制解除となった。最悪の覚悟をしていたが、生きていてほっとした。しかし誰が見ても栄養失調と分かるので、「病院に」と言っても、こたつ布団に…

安倍一強とおもねる官僚

森友学園に対する国有地の破格な売却をめぐり、財務省の決裁文書改竄問題が政局を揺るがしている。犯罪になるようなことを、なぜ財務官僚が行ったか。その背景について、中央省庁の現役やOBの官僚に話しを聞くと、首相官邸と官僚の歪んだ関係が浮かび上がっ…

クリスマスとは

クリスマスとは、イエス・キリストの誕生を祝う日です。11月ともなれば街中にキャロルが流れ、電飾に輝くツリーが人々の目を引きます。キャロルの中でも、一番人々に愛され、歌われているのは、「静けき真夜中」ではないでしょうか。 ところが、この歌がいつ…

クリスマスの訪れ

キリストが12月25日に生まれたという記録は、どこにもありません。その昔ローマでは12月24日を「冬至明け」の日とし、太陽神の祭礼の最後の日として祝ったと言われています。従って、その翌日25日は、太陽が活力を増し始める日でした。 その土地の伝統を大切…

かたくなだった親に頼らぬ人生

昨年2月、生まれて初めて入院、手術をした。 いよいよ手術時刻が迫ってきた。背骨に部分麻酔をし、腰から下は感覚を失い、意識もやや混濁してきたその時であった。わが姉妹が現れて、口々に「兄貴も私たちの仲間入りだね」とほくそ笑んでいるではないか・・・。…

質素な中に無限の可能性

冷蔵庫もない節電生活で注目されている元新聞記者の稲垣えみ子さん。近著「もうレシピ本はいらない」(マガジンハウス)で、自分で作るご飯、みそ汁、ぬか漬けといった「早くて安くてうまい」食事を心から楽しむ暮らしを軽妙洒脱な文章でつづり、「質素な中…

骨髄移植し20年 名も知らぬ恩人

21年前、白血病の完治を目指し骨髄移植を望み、骨髄バンクに患者登録した。その後、ドナーが見つかり骨髄の提供を受け、移植し成功した。今、私があるのはあなたがいたから。もし、あなたがいなければ私はいないかもしれない。見ず知らずの私のために、自ら…

何回でも転び 起きる

芥川賞作家にして慶応大の教壇に立つフランス文学者。時には金原亭馬生(きんげんていばしょう)門下の二つ目として高座にも上がる荻野アンナさん(60)は多方面で活躍中だが、20年ほど前からうつ病の治療を続けている。発症のきっかけは、親の介護だった。 …

美大を目指す夢よみがえる

私は絵を描くことが好きだ。物心ついた頃から10数年間、ずっと描き続けている。将来は絵に関係する職に就きたかったので、そのために美大に行きたいと考えていた。有名な美大は憧れだった。しかし、中学生になった時、その夢を諦めてしまったのだ。原因は、…

かけがえのない経験

骨髄ドナーの実態知って 白血病などの治療の難しい血液疾患を治すための骨髄や末梢血幹細胞の移植は、提供者(ドナー)の慢性的な不足が課題となっている。「提供の実態がまだまだ知られていないのでは」とドナーを体験した俳優の木下ほうかさんは語る。 ▶き…

あの世の私の母 義母をお迎えに

お盆の行事が終わってホッとしていた夜、「奇跡の霊能者・・・」という番組が流れた。見て50年も前に本当にあった不思議な体験を思い出した。義母ががんの手術をし、一時は普通の生活に戻れたが、再発し入院した。死期が近づいていた時、義母が突然「お母さんが…

人間中心でいいのか

田んぼの中を、数え切れないほどの黒いオタマジャクシが泳ぎ回っている。「この水田に5万匹いる計算になる」福岡県糸島市の農家、宇根豊さん(67)が田植えから10日ほどたった6月18日、笑顔で話した。田に足を踏み入れ、目を凝らすと、小さな虫がたくさんい…

風情ある和語の数詞

「ひとつ、ふたつ、みっつ・・・やっつ、ここのつ、とお。何で次は『じゅういちつ』って言わないの?」私の勤務先の学習塾に通う小学3年生のよし君が面白い質問をしてきました。皆さんは答えられるでしょうか?これは、「ヒ(ト)、フ(タ)、ミ、ヨ、イツ、ム…

命をもらうこと 感謝して食べる

私は授業で畜産を勉強しています。昨年、鶏の解体をしました。鶏はひなから飼い始め、授業選択のみんなで大きくなるまで育てたものです。大事に育ててきた鶏を解体するときは、とても複雑な気持ちになりました。解体は、まず鶏の足を縛り、逆さに吊るすとこ…

宙を飛んだ! 不思議な事故

夢に現れた恩人に助けられたという投稿が1月に掲載された。読んで、20年ほど前の真冬の朝、勤務先の駐車場で起きた、不思議な出来事を思い出した。止めていた私の車に、同僚の車が路面凍結によるスリップで衝突したと聞き、駆け付けると、同僚にけがはなかっ…

「大人とは話さない」

小学生が障害者家庭背負う 呼び鈴を鳴らして家に入ると、刃物を持った少年が大声を上げて襲いかかってきた。「大人とは話さない。全員死ね!」今から数年前、学習支援で中通りの家を訪問した支援団体の女性担当者は、当時、小学生だった和也=仮名=との出会…

理屈優先の社会に限界

幼少期から昆虫採集に親しみ、医学部に進んだものの「(医療過誤で)人を殺さずに済む」との理由で解剖学者の道を選んだ養老孟司さん。「命とは何か」「幸福とは何か」を常に問い続けた人だ。かねて、日本よりも経済的に豊かではないブータン人が大切にする…

命より大切な仕事ない

古都の紅葉も終盤の昨年12月3日。京都市北区の私立洛星高校で、寺西笑子さん(67)が1年生約220人に特別な授業をした。寺西さんは「全国過労死を考える家族の会」の代表を務めている。「夫が49歳で亡くなったとき、私は47歳、長男20歳、次男14歳。皆さんの中…

生死さまよう中 夢で救った恩人

以前、体調を崩し、大変苦しい思いをしたことがありました。部屋のベッドで休んでいた時のことだと記憶しています。まさに生死の境をさまよう状態でした。その時、枕元に幻影が立ったのです。私の頭の後ろを両手で抱きかかえるようにして、私の名を何度も何…

少年時代の思いが原点

自由な発想と色使い、思わずクスッと笑ってしまう物語が魅力の絵本作家・五味太郎さん。なりたかったわけではない70歳を過ぎ、「気がついたら絵本しかやってないな」と顧みる。この「自分に合う表現の仕方」に出会ってから40年を超えた。 最近、作家としての…

安心のできる場所を

黒川祥子著「誕生日を知らない女の子」 毎年、多くの子どもが虐待によって命を奪われる。そんな報道を見聞きするたびに私たちの胸は痛むが、「殺されずにすんだ」子どもたちのことを知る機会は、ほぼない。 集英社から刊行された本書は、児童相談所に保護さ…

法を守って安全な世界を

最近、世界各地で大規模な自爆テロ事件が頻発している。パリ、ベルギーのブリュッセル、そしてバングラデシュのダッカ。ダッカでは、同国のインフラ整備のために献身的に取り組んでいた7人の日本人が犠牲になった。そして、7月14日の革命記念日、フランスの…

物乞いの薬

「みんなのひろば」に「翁島の昔話聞き 大切な情け学ぶ」という投稿が掲載されていました。母の実家は浪江町請戸で、明治の初期、船主として100人ほどの従業員を使っていたそうです。漁獲が郡内一、二を争っていたと母が生前、話していました。ある日、汚い…

生きてほしかった

枕元の寄せ書き 百合ちゃんの頭蓋骨に骨肉腫が見つかったのは、1歳の時だった。国立病院での放射線治療後は、小学5年生まで元気に過ごしていた。鎌倉の大きな家でピアノのレッスンに励み、コンクールで表彰されたこともあった。 12歳の時、骨肉腫が再発した…

納屋にこもった老人

人生の意味 「ずっと納屋に閉じこもっている弟がいるんだ」宮古島のサトウキビ農家の、腰痛で歩けないため訪問診療していた千代さんの夫から相談を受けた。宮古島の大抵の農家には前庭に大きな納屋がある。弟の長英さんは69歳、終戦の5年後の20歳ごろから様…

生きることは幸せか

壊れていった家族 宮古島の官庁街にほど近い集落に住んでいた42歳のひろ子さんが連絡をくれたのは、訪問診療の患者が増えてきた頃だった。「私がこうなったのは、祟りのせいだと医者に言われた」と、ろれつの回らない島のなまりで言った。 ひろ子さんは数年…