朴念仁の戯言

弁膜症を経て

質素な中に無限の可能性

冷蔵庫もない節電生活で注目されている元新聞記者の稲垣えみ子さん。
近著「もうレシピ本はいらない」(マガジンハウス)で、自分で作るご飯、みそ汁、ぬか漬けといった「早くて安くてうまい」食事を心から楽しむ暮らしを軽妙洒脱な文章でつづり、「質素な中に無限の可能性があります」と語る。
稲垣さんは、3日に1回玄米を鍋で炊いておひつに保存し、みそ汁、干し野菜や厚揚げなどでおかず1品をささっと作る毎日を送っている。
「ご飯の甘さ、干し野菜の凝縮されたうま味を味わい尽くしています」
会社員時代、特に若い頃は食べ歩きしたり、山ほどのレシピ本や多種多様な調理道具、食材を取りそろえ、ギョーザの皮や手打ち麺まで作ったりした。
それが40代を迎える頃、「こんな浪費生活はいずれ行き詰まる」と思い、衣食住にお金を注いできた生き方を見詰め直すように。
ライフスタイルの変革を後押ししたのが、東京電力福島第一原発事故を機に始めた節電生活。
掃除機、テレビ、エアコンなどの家電を手放してみたら止まらなくなり、ガス契約もやめた。服は手洗いし、ほうきで掃き、銭湯に通う。
「今必要なのは『食の断捨離』」ときっぱり。
経済成長の中で、洋服や家具を捨てる断捨離がブームになった。
「でも食だけが忘れられている。珍しい、おいしい味を求めて、食はどんどん複雑に見た目も過剰になった。生きるための手段から遠ざかり、際限のない娯楽、競争になった」と指摘。
「でも家庭料理はワンパターンでもいいのでは。自分でご飯と汁をつくれば、お金も時間もかからない。毎日違うごちそうを作らなきゃいけない、と思うから苦しくなってしまう」と力を込める。
現在、東京都内の築50年の賃貸ワンルームマンションに1人暮らし。
電気代は電灯、ラジオ、パソコンと携帯電話などで月150円台、食費は1食200円、という生活だ。
「お金が少なくても幸せになれる、と実感している。いい家が欲しい、もっと稼ぎたい、評価されたい、という欲望にはきりがない。老後で一番必要なのは友人や近所の人との助け合い。世のため人のために生きれば、回り巡って自分も幸せになります」と爽やかな笑顔を浮かべた。

※平成29年12月7日地元紙掲載