朴念仁の戯言

弁膜症を経て

社会

近代化によって失ったもの

私は東京都の都心部に住んでいるが、ビルの建ち並ぶ表通りから一歩裏に入るとまだ2階建ての木造住宅が所狭しと拡がっている。 しかしほとんど気付かぬうちに木造住宅群は取り壊され、高層のオフィスやマンションに建て替っている。しかも開発の規模は次第に…

大転換の世にぴったんこ

昨晩、家事を終え、一息ついてテレビを見ていたら大口を開けた俳優らが何かを頬張っていた。 路線バスの運行時間帯に前もって決められた、評判の飲食店を廻り切れるかどうかの内容らしい。 男どもに混じって紅一点、三十路の女が次から次へとラーメン、ステ…

何もかも炙り出される世の中に

最近、本を読まない。 細かい字を目で追うのが面倒になったのもあるが、小説は特に読む気がしなくなった。 テレビは、と言えば、ゴールデンタイムの民放系なぞ害悪の極みで飽食のオンパレードに芸人のバカ騒ぎには目の毒とすぐにチャンネルを変えるか、スイ…

世界の、人類の変わり目に

間もなく今年が終わる。 感慨深く振り返りもするが、時間の概念なぞ人間が考えたもので今年も来年もない。 今しかない。 今あるだけ。 その連続の最中に何もかにもが存在している。 日常の無常さを、コロナで全世界の人類が否が応でも共有させられた一年。 …

同じ人間なのに

母国を追われ、レバノンに逃げてきたシリアの人たち。 ベッドに横たわる年若い男性。 癌になった母親の治療のため自分の腎臓を売った息子。 術後のまだ痛みが続く左脇腹の、斜めに走る30㎝ほどの手術痕を見せ、「母の治療のためだから(臓器売買を)後悔して…

悲しみ癒えることなく

「あのときの息子の体の冷たさ、それが原点です」全国自死遺族連絡会の代表理事田中幸子(70)の長男健一は2005年11月、34歳の若さで自らの命を絶った。当時、宮城県警塩釜署の交通係長。 連絡を受けて仙台市の自宅から署の官舎に駆けつけ「体に触ると氷より…

新元号公表の日に

お前は、虚飾の装いで己を誤魔化し、他人の目を気にするケツ穴すぼまった男お前は、職場への不平不満を時折まくし立て、苛立ちを募らせる負け犬間抜けな薄ら笑いを止めろ お前は、自己本位の価値観を棚に上げ、他人を下位に評価する偽善者お前は、他人の粗(…

ピカピカ電気で疲れ切った並木

「ライトアップは電力の無駄遣い」に全面的に賛成です。光のページェントやら何やかんやいって、並木になんか電気をつけて喜んでいる。樹木だって夜はゆっくり休みたいはず。それなのに一晩中、ピカピカ電気をつけて「並木いじめ」をしている。並木は黙って…

自殺を見ぬふり 人ごとではない

奈良県の駅で女子高生が電車に身を投げ、自殺したニュースをテレビで見た。悲しい出来事だったが、自分には直接関係がないと思いながら過ごした。 ある日、会員制交流サイト(SNS)で女子高生が自殺するまでの動画が流れていた。彼女は自殺する様子を、自分…

「大人とは話さない」

小学生が障害者家庭背負う 呼び鈴を鳴らして家に入ると、刃物を持った少年が大声を上げて襲いかかってきた。「大人とは話さない。全員死ね!」今から数年前、学習支援で中通りの家を訪問した支援団体の女性担当者は、当時、小学生だった和也=仮名=との出会…

理屈優先の社会に限界

幼少期から昆虫採集に親しみ、医学部に進んだものの「(医療過誤で)人を殺さずに済む」との理由で解剖学者の道を選んだ養老孟司さん。「命とは何か」「幸福とは何か」を常に問い続けた人だ。かねて、日本よりも経済的に豊かではないブータン人が大切にする…

命より大切な仕事ない

古都の紅葉も終盤の昨年12月3日。京都市北区の私立洛星高校で、寺西笑子さん(67)が1年生約220人に特別な授業をした。寺西さんは「全国過労死を考える家族の会」の代表を務めている。「夫が49歳で亡くなったとき、私は47歳、長男20歳、次男14歳。皆さんの中…

苦しみ背負う人 忘れないで

汚染された魚介類で神経障害を発症した水俣病患者を描いた「苦海浄土(くがいじょうど)」で知られる作家石牟礼道子(いしむれ・みちこ)さん(88)=熊本市=が、共同通信のインタビューに応じた。水俣病は5月1日で公式確認から59年。被害の全容はつかめな…

「更生の道」共に歩む

元受刑者出所して4日目、カプセルホテルで目覚めた。10年間の刑務所作業で得た報奨金約25万円の半分が消えていた。上京の新幹線代、悪化した腰痛の治療費、宿泊費、食費…。このままでは、また悪いことをしてしまう。公衆電話を探し、暗記していた電話番号に…

つながり

「愛は溢れゆく」と言われています。 一人の長距離トラックの運転手が、自分の体験を投書していました。 「その日、自分は夜っぴて運転し続けて、あと少しで目的地に到着するはずでした。朝の7時頃だったでしょうか、目の前を一人の小学生が、黄色い旗を手に…

潤い

マザー・テレサの修道会の仕事の一つに、貧しい人たちへの炊き出しがあります。日本なら、さしづめ、おにぎりと味噌汁、外国ならパンとスープを、列を作って並んでいる空腹を抱えた人たちに渡してあげる仕事です。 夕方、仕事を終えて修道院に戻って来るシス…

壊れたボイラー

昨年、家のボイラーに火がつかなくなりました。燃料がないのかと思ってタンクを見ると、確かに入っています。義父の33回忌法要を二日後に控えていたので、泊まる人たちが風呂に入れないでは困ると、がっかりしました。いつも世話になっている鉄工所に頼んで…

停車場にて

明治26年6月7日 昨日、福岡からきた電報によると、同地で捕えられた重罪犯人が、今日、正午着の列車で、裁判のため熊本へ護送されてくるという。熊本の巡査が一人、囚人を連れてくるために福岡へ出向いていた。4年前のこと、ある夜、一人の強盗が相撲町のあ…

原発推進「不気味な足音」

現役キャリア官僚の覆面作家 若杉冽氏に聞く 現役キャリア官僚の覆面作家若杉冽さんが、原発再稼働に突進する政官財のトライアングルを描いた告発小説「原発ホワイトアウト」(講談社)が昨年9月の発売以降、好調な売れ行きを続けている。小説は、エネルギー…

毒性

日常ではほとんど聞かれなくなったが、上方落語などでしばしば耳にする。「どくしょうな目におうた」「どくしょうなことを言いよる」と言った使われ方で、程度のひどいことや毒々しいことを意味している。人に対して用いられる場合もあり、「どくしょうな人…

入院時にいじめ 厚顔無恥に怒り

昨今では病院にもいじめが巣くっている。先日、ある病院に認知症の母の入院に付き添った。 4人部屋の4人目として入室した際、先に入院していた方にあいさつを忘れたことでも不快だったのか、認知症ゆえの母と私のいささか幼稚な会話をあげつらい、3人でひそ…

母の日に思う

いつ頃からあるのか知らないが、社会への免疫力少ない小学生時分、母の日・父の日の訪れは私に嫌悪感を抱かせた。 クラスの連中の視線を好奇の矢のように感じ、みじめに、哀しみに沈んだ。 片親、もしくは両親のいない子どもたちの気持ちを汲み取らず、しか…

ネギと人間

韓国の民話にネギと人間にまつわるものがある。人間がネギを食べなかった頃の話。 どうかした拍子に人間が牛に見えてしまう時がある。すると人々は牛だと思って人間を殺して食べてしまう。ある時、ある男が自分の兄弟を牛と見違え、早速殺して食べてしまった…

一致を願う

柴生田稔(しぼうたみのる)という近代歌人の詠んだ歌です。 今日しみじみ語りて妻と一致する 夫婦はついに他人ということ 時間をかけて、しみじみ妻と語り合った結果、一致に到達した。その結論は、夫と妻は夫婦であるが、お互いに〝他人〟であることを忘れ…

時代が生んだ暴力描く

本田靖春との共通点 後にフリージャーナリストとなった本田靖春は、都立千歳高校の同級生だった。高校1年のときにぼくが務めた生徒会長を、高校2年で本田が引き継ぐことになったが、まだこのころはそれほど親しかったわけではない。ただ、戦後の独特の空気を…

暴力の連鎖変える道標

ライファーズ 坂上香著 人は変わることができる。サンクチュアリ(安全な場所)と、話を聞いてくれる仲間でいれば、暴力の連鎖は回復の連鎖に変わり得る。米国の刑務所や社会復帰施設で、犯罪者の更生プログラムで行ってきた民間団体アミティ。17年間の取材…

障害者が働ける法と環境整備を

私は若いころから転職を繰り返していました。車の大型免許を持っていたことから、30歳を過ぎて運送会社に就職し、8年ほど勤めました。 もっと勤めたかったのですが、性格が災いしたのか病気になってしまい緊急入院しました。何とか落ち着いた時に、医師から…

樹木葬墓地を訪ねて

車窓に映る緑の色が北上するに従って、若くなっていく。私が暮らす東京では、すでに夏の色になりつつあるのだが。季節を逆にたどるような感覚を味わいながら、ふと思う。人の一生にも、こんな風に時をさかのぼる特別な日があるといいのに。そうしたら、見送…

現代の「ひじり人」たち

「おくりびと」という言葉が流行語のように使われている。青木新門さんの「納棺夫日記」が発端だった。「納棺夫」とは死者の体をきれいに拭って、お棺に納める人のことだ。青木さんは長い間、その仕事に携わっていた。本を読んで青木さんと交流を持った本木…

小さければ小さいほどよい

私はすでに70歳を超えた。異なるジャンルの仕事をかなり乱暴に渡り歩き、そこそこの世俗的成功と、その10倍ぐらいの失敗を重ねてきた。保障もなく厳しい競争にさらされる仕事ばっかりだったが、その分スリルと快感も味わった。そして今、人生レースの最後の…