朴念仁の戯言

弁膜症を経て

かけがえのない経験

骨髄ドナーの実態知って

白血病などの治療の難しい血液疾患を治すための骨髄や末梢血幹細胞の移植は、提供者(ドナー)の慢性的な不足が課題となっている。
「提供の実態がまだまだ知られていないのでは」とドナーを体験した俳優の木下ほうかさんは語る。

▶きっかけは献血
木下さんが日本骨髄バンクにドナー登録したのは2004年ごろ。20代からたびたび献血をしていた。そこでバンクのポスターを見たのがきっかけだ。
「骨髄提供についてはかなり負担がある、しんどいものだというイメージを持っていた。でも登録自体はわずかな採血で済むので、やってみようと」
ドナー登録は献血ルームや保健所、各地で開かれるドナー登録会などでできる。申込書に記入し、約2㏄を採血するだけ。もちろん費用はかからない。
09年、患者と白血球の型が適合したとの通知が木下さんに届いた。提供の意思確認と家族の意向、健康状態や日程などを尋ねる書類が同封されていた。

▶仕事の調整に悩み
「半分忘れかけていたのが急に本番となって、驚いた。ひとまず病院でコーディネーターからの説明と医師の問診を受け、健康状態を確認するための採血をしました」
その後は仕事のことで悩んだという。一週間から十日間のスケジュールを空けないといけない。そこに良い仕事が入ったら-。
「生きている中で一時くらい、仕事が取れなくてもいい。たった一回、数日のことで人が一人救われるのであれば意義があるなあと考えた」
骨髄採取に不安はなかったが、所属事務所や家族は反対した。
「臓器を取り出すようなイメージを持っている人もいるので。でも結局は自分の意志で決めることだから」
実家のある大阪の病院で両親も同席し、最終同意書に署名。東京に戻り、骨髄採取後の貧血を軽くする自己輸血用に、800㏄の血液を二回に分けて採った。

▶患者からの手紙
採取前日に入院し、翌朝、採取を開始。骨盤に注射針を二ヶ所刺し、二時間半で約1㍑の骨髄液を採った。
三泊四日で退院し、その後の検査も異常なし。一年後、木下さんの骨髄を移植された患者から、バンクを介し手紙が届いた。ドナーと患者の間では個人を特定しない形で術後一年間二往復まで手紙を交換できる。
「丁寧で、重い内容で・・・。顔は見えないけど、喜んでおられる。僕のしたことは、大したことじゃないのに。読むたびに泣けてきます」
ドナー登録者数は約47万人で伸び悩んでいる。登録は55歳の誕生日で取り消され、毎年約2万人がいなくなる。木下さんも19年で「卒業」だ。
「骨髄提供は、かけがえのない経験でした。だからこそ多くの人に知ってもらいたい。若い人には取りあえず登録だけでもしてほしいな」

※平成29年9月25日地元紙掲載