朴念仁の戯言

弁膜症を経て

安心のできる場所を

黒川祥子著「誕生日を知らない女の子」

毎年、多くの子どもが虐待によって命を奪われる。そんな報道を見聞きするたびに私たちの胸は痛むが、「殺されずにすんだ」子どもたちのことを知る機会は、ほぼない。

集英社から刊行された本書は、児童相談所に保護された子どもたちの「その後」を追ったルポルタージュだ。24時間、いつ殴られるかわからないという緊張感の中で育った子どもたちは過覚醒で、どれほど強い薬を飲んでもふらつきもしない。

突然、感情がフリーズしたように固まる子どももいれば、暴力の中で育ってきたため、暴力でしか表現できない子どもたちもいる。優しく里親家庭に迎え入れられても、抑え込んでいた怒りは安心できる里親に向かってしまうこともある。実の親に万引きを強要されていたことから、盗みを繰り返してしまう子もいる。学校で問題を起こしてしまう子もいる。

多くの子どもが、まるで戦場を生き抜いてきたかのような傷を負っている。そんな子どもたちに寄り添う里親やファミリーホームの大人たち。温かな環境の中で子どもらしさを取り戻し、成長していく子もいる。が、気まぐれに「引き取る」と言ったり、約束を反故(ほご)にしたりするような親に振り回され、さらに傷を深めてしまう子もいる。

虐待の傷の深さは、本書の最終章に登場する「大人になった被虐待児」・沙織さんの葛藤にも表れる。二人の子どもたちを育てる彼女にとって、育児そのものが虐待のフラッシュバックとの戦いだ。自分にはクリスマスも誕生日もなかったのに、娘がプレゼントに文句を言うのが許せない。愛そうとすればするほど、過去の自分がよみがえる。そうして子どもを虐待してしまう。

そんな被虐待児たちが「希望」へと向かう分かれ道は、「根っこが張れる場所が、あるかどうか」。ある里親女性の言葉だ。
信頼できる人間。安心できる場所。どこかに根っこを張れれば、どんな子でも変わる。
私たちにも、「根っこ」の一部を担うことが、きっと、できるはずだ。

※作家の雨宮処凛(かりん)さん(平成28年12月3日地元紙掲載)