朴念仁の戯言

弁膜症を経て

平常心

「シスターの心にも波風が立つ日がおありですか。いつも笑顔ですけれども」

大学生の一人の質問に私は答えました。

「ありますよ。他人の言葉や態度に傷ついたり、難しい問題にぶつかって悩んだりする時に、平常心を失うことがあります。ただ、自分の動揺で、他人の生活まで暗くしてはいけないと、自分に言い聞かせ、心の内部で処理する努力をしているだけなのですよ」

私は、母から受けた教育をありがたいと思っています。小さなことでクヨクヨしていた私に、母は申しました。

「人間の大きさは、その人の心を乱す事がらの大きさなのだよ」

この言葉が、折あるごとによみがえり、私に事がらの大きさを考え、つまらないことに自分の時間とエネルギーを費やしてはもったいないと思う習慣をつけてくれました。平常心に立ち戻ることを可能にする一つの秘訣です。

母は結婚のため、愛知県の小さな町から東京へ出て来ての生活の中で、父の地位にふさわしい教養を身につけるまでには、辛いことも多かったようです。その母が、自分の経験から子どもたちに伝えた言葉には説得力がありました。

「人は皆、自分が一番かわいいのだから、甘えてはいけない」

期待しすぎるから、期待はずれの時に腹が立ち、平常心を失うのです。
期待してはいけないというのではありません。ただ、自分も他人も、弱い人間であることを心に留めて、「許す心」を忘れないでいるようにという戒めでした。

醒めた目で問題の大きさを見極め、温かい心で人間の弱さを包むこと。このような「目と心」のバランスが、平常心に立ち返り、それを保ちながら生きる私の毎日を、助けてくれています。

※シスター渡辺和子さん(平成26年10月27日心のともしび「心の糧」より)