まな板の鯉、その体でその時を待った。
私の右目に、眼鏡をかけた男の姿が映った。
K医師だ。
K医師は、布を折りたたんだような大きさ20㎝四方のものをおもむろに私の右脚のつけ根に置き、その布をパタパタと広げ始めた。
上は胸元から、下は膝小僧まで、その布ですっかり覆われてしまった。
カテーテルの挿入口の、右脚のつけ根だけは円形に穴が空いているようだ。
「はい、ちょっとチクッとするよぉ」
K医師はそう言いながら、右脚つけ根に麻酔針をブスリ。
「はい、またチクッとするよぉ」
と、今度は皮下層の深いところにブスリ。
それが終わると、K医師はビニール袋状のものを両手に掲げ、その中から細長い針金状のものをスルスルと引き出した。
これがカテーテルか。
内心でつぶやいた。
一人ひとり動脈の大きさは違い、それに合わせてカテーテルの径は決まる。
K医師の手指が私の大腿部に触れた。
あったかい。
K医師の手指の思いのほかの温かさに、私の心は安らいだ。
その手がすばやくカテーテルを送り出した。
動脈にカテーテルが滑り込んでいくのが分かる。
だがそれも初めだけで、あとはK医師の手の動きを感じるだけだった。
それから数分もしないうちに私の頭上にあった、ヘアーネットで覆われたようなモニター(レントゲンか)が胸の上で止まった。
「はい、ちょっと練習しましょう。はい、息を吸ってぇ、はい、吐いてぇ」
「はい、それでは本番いくよぉ。はい、吸ってぇ、はい、止めてぇ」
5秒くらい息を止めた。
「はい、楽にしてぇ」
それを2回ほど繰り返した後、例のモニターが胸元を回るように動き始め、胸の左上部斜めの位置に止まった。