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朴念仁の戯言

弁膜症を経て

発症①

平成17年の7月、子供にカラテの指導していた時のことだ。

30分ほどの基本稽古が終わると、何食わぬ顔で平然としている子供とは対象的に、息も絶え絶えに肩を上下させている自分がいた。

何だろう、この息苦しさは。

いつもなら身体ならし程度のものが、この日は違った。

おかしい。

息の上がり方が異常だ。

身体のサインが黄色の点滅信号に思えた。

間を置かずして総合病院の循環器科へ行った。

レントゲン、エコー、心電図検査の結果、医師に告げられた。

「心臓には四つの弁があり、そのうちの一つ、僧帽弁がうまく閉じずに血液が逆流している。このままだと救急車の世話になるだろう。すぐに検査入院したほうがいい」

仕事の関係から秋までは時間が取れず、その日は検査の予約もせずに帰った。

その間、デスクワークだけならそれほどでもなかったと思うが、肉体作業に従事するとその影響は覿面だった。

疲労度が違った。

倦怠感が全身に圧し掛かり、集中が途切れた。

9月下旬の魔の刻過ぎのことだった。

仕事が一段落し、体育館通路脇の、コンクリートの段差に腰を掛けると、

「疲れた。今回は疲れた」

と、今まで口にしたことがなかった言葉が洩れ出し、それは薄暮の黒い部分に吸い込まれるように、消えていった。

まだ仕事は序盤戦だったが、もうその段階で何かも終わったように、疲れ果てていた。