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朴念仁の戯言

弁膜症を経て

入学式

「今日は小学校の入学式だ」

今朝、新聞を読んでいると誰に言うわけでもなく口を衝いて出た。

するとそれに応じるように、

「あーそうか、母ちゃんも入学式のとき、写真撮りに行ったなあー」

室内の物干し竿に洗濯物を掛けながら、間もなく古希の年齢に達する母は懐かしそうに言った。

「誰の入学式? おれの?」

「そうだよ」

「歩って?」

「そうだよ、小学校の近くの写真館まで」

「M(妹)とT(弟)も一緒に?」

「そうだよ、Tを背負い、Mの手を引いて」

当時、年若かった母は、家庭を顧みない父に見切りをつけ、正に孤軍奮闘で私を頭に5歳の妹、2歳の弟の三人の子どもを育てていた。

今朝、その話を聞いて、新調した服を得意気に写真館を目指して意気揚々と先頭を歩く私と、その後に二人の子を伴って歩く母たちの姿がまざまざと目に浮かび、不覚にも涙腺が緩み始めた。

母は、子どもたちに引け目を感じさせないようにと、父と別れた後も私たちには一度たりともひもじい思いをさせたことがなかった。

 

その当時の母に、子どもたちに会いたい。

そして、母の背に、「母ちゃん、応援しているよ」と声を掛け、張り詰めた背を撫でてあげたい。

育ててくれてありがとう、母ちゃん。