朴念仁の戯言

弁膜症を経て

人生は一回限りの旅

転機は31歳の時。

がんの専門病院に移り、私よりはるかに厳しい現実に向き合う人々の話を聴くようになった。

金融機関でバリバリ働き、27歳で逝った岡田拓也さんは責任感の強い努力家だった。海外留学も志し、休日も勉強に励んでいたある時、進行性スキルス胃がんと判明。「普通ならもっと生きられるはずなのに。悔しくて、悲しくてしょうがない」。絞り出していた声が忘れられない。

サッカーが大好きでプロ選手を夢見ていた男の子は、2年ほどの入院生活の末に旅立った。

声帯を切除して声が出ない女性、舌がんで水も飲めない男性・・・。

「あなたに私の気持ちが分かるのか」と疑いの目を向ける患者さんもいた。

一方で限られた時間を見つめ直し、深く生きようとする人も多かった。

私は圧倒され「自分が役に立てるのか」と自問した日もあったが、出会った患者さんが次々と逝くのを目の当たりにして悟った。

人は必ず死ぬ。人生のタイムリミットは確かにあるのだと。

死と向き合う方たちが「人生は一回限りの旅」だと身を持って教えてくれた。

だから考えるのだ。

自分にとって何が本当に大切なのか。今日一日を大切にしようと。

その旅の途中で「無為に過ごしてしまった」と反省する日もあるし、迷うことだってある。それでも精いっぱい生きたいと思っている。

 

※がん患者と向き合う精神科医の清水研さん(2022.1.6地元紙情報ナビ「成人の日に寄せて」より)