朴念仁の戯言

弁膜症を経て

後ろ髪

「行ってきます」
「車の運転に気を付けるんだよ」

出勤時の私と母のいつものやりとり。
母は必ず玄関先に出て私を見送る。
母の視線を背に受け、私は「分かったよ」と返事をする代わりに片手を上げて車に乗り込む。
いつもの光景。

この一瞬に想う。
別離と公私の区別がもたらす無常感。
ガラスのカーテンのような無機質な幕が、私と母の間を遮る感覚。
これで終わりかもしれない。
もう会えないかもしれない。
当たり前の日常が当たり前じゃないと知ってから。

「後ろ髪を引かれる」
いつもの朝、禿頭の私が感じる不思議な感覚。
それは、一日一日を悔いなくと。