朴念仁の戯言

弁膜症を経て

原発推進「不気味な足音」

現役キャリア官僚の覆面作家 若杉冽氏に聞く

現役キャリア官僚の覆面作家若杉冽さんが、原発再稼働に突進する政官財のトライアングルを描いた告発小説「原発ホワイトアウト」(講談社)が昨年9月の発売以降、好調な売れ行きを続けている。
小説は、エネルギー基本計画案で原発の活用方針を鮮明にした安倍政権の姿に重なる。
政府の中で何が起きているのか。
若杉さんに聞いた。

―小説を書いたきっかけは。
「第2次安倍政権誕生後、政官財は東京電力福島第1原発事故を忘れ、まるで行進するように原発推進へ歩み始めた。国民はそんなことを許したわけではないのに。整然と響く不気味な足音を内部から告発したかった」
―描写がリアルだ。
「内容は直接見聞きしたことと、間接的に聞いたことが半々。職務上、電力業界の姑息さや『日本の原発は世界一安全』というウソに間近に接してきた。そこへの怒りが執筆の根にある」
―なぜ政府は原発活用を進めようとするのか。
「電力業界は、小説で『モンスター・システム』と書いた巨大な集金・献金システムを通じて与党政治家を中心にカネをばらまき、発言力を強める。官僚も、上層部の人事は与党が握っており政治家にすり寄る。原発を動かして利益を得たい電力業界の思惑が、政府や官僚に行き渡るシステムができあがっている」
―役所にいて電力業界の影響を感じたことは。
原発政策を推進する上でふさわしい職員と、ふさわしくない職員を電力業界がリストアップし献金先の与党政治家に渡していた。出世したい幹部官僚は政治家に唯々諾々と従う。電力自由化を本気で進めようとした局長級の幹部が左遷されたこともあった。電力には歯向かうなという雰囲気がつくり上げられていた」
東京電力柏崎刈羽原発新潟県)の再稼働を目指している。福島第1原発事故の対策に巨額の国費も投入される。
「再稼働か、さもなくば値上げかという脅しの論理だ。また、国費を投入する以上、まず株主や債権者の責任を問うべきなのに、それをせず国民負担というのは間違っている。東電は一度破綻処理をして責任を明確にすべきだ」
―昨年末に案がまとまった国のエネルギー基本計画で原発活用が明確に打ち出された。
「茶番だ。今回、高レベルの放射性廃棄物の最終処分場の選定で自治体による手挙げ方式をやめ、国が候補地を示す形に変更した。だが、成田闘争を思い出してほしい。空港建設用地の強制収用で激しい反対運動が起きた。政府は強制収用が受け入れられる土壌ができたとでも思っているのか」
―電力小売りの自由化で新規参入者が既存の送配電網を公平に利用できるよう大手電力会社の発電と送配電部門が分離される。電力も競争分野になるとの触れ込みだが。
「どこまで競争にさらすかは官僚のさじ加減だ。発送電分離も、資本関係を解消させる所有権の分離には踏み込まなかった。自由化のポーズを示しながら根幹部分は変えない。官僚らしい巧みなやり方だ」
―官僚に絶望したか。
霞が関にも若くて澄んだ目を目した人や不満を持っている人はいっぱいいて、地下茎のように根を張っている。私は改革をあきらめていない」
特定秘密保護法が成立した。
原発関連の情報は特定秘密に指定されるだろう。関係職員は同僚と政策の議論もできなくなる。政策の質は劣化するだろう。不利益を被るのは国民だ。国民にはもっと怒ってほしい。国民をないがしろにする動きがあれば、私はこれからも霞が関の内側から戦う。本について犯人捜しの動きもあるが、書いたことは全く後悔していない」

平成26年1月12日地元紙掲載