朴念仁の戯言

弁膜症を経て

暴力の連鎖変える道標

ライファーズ 坂上香著

人は変わることができる。サンクチュアリ(安全な場所)と、話を聞いてくれる仲間でいれば、暴力の連鎖は回復の連鎖に変わり得る。米国の刑務所や社会復帰施設で、犯罪者の更生プログラムで行ってきた民間団体アミティ。17年間の取材で得た著者の結論は明快で説得力がある。

アミティは再犯予防に大きな成果をもち、日本でも官民共同型の刑務所でプログラムが始動している。著者が2004年に製作した本書と同名のドキュメンタリー映画がきっかけである。ライファーズとは無期刑、終身刑受刑者のことだ。

アミティは創設者をはじめスタッフの多くが元受刑者や元薬物依存者の、TC(治療共同体)である。そこでは徹底した語り合いが重視される。生易しくはない。「傷をなめあう」どころか、「墓場にまで持っていくつもりのことを話せなければ、本音を話したことにはならない」と、被害も加害も体験を詳細に、感情を伴って何度も語ることが求められる。

暴力に曝(さら)されて育ち、家庭からも安心を得られず、壮絶な生活史をもつ人が多い。恥。恐怖。欠乏感。不信感。憤り。孤独。当事者同士でないと越えにくい壁がある。暴力以外に人とつながる方法を知らず、闇の中に立ちすくむ受刑者たち。先ゆく者が道標となって、後からくる者を導く。

読んでいて、著者の真摯な関わりが彼らのエネルギー源になっていることに気づく。変容のプロセスを目撃し、証人として記録し、日本への使者となる人間の存在が、彼らをどれほど勇気づけたことだろう。

著者の前著「癒しと和解の旅 犯罪被害者と死刑囚の家族たち」を読んだ時の心の震えを今も覚えている。被害と加害と社会の関係が本書でさらに深く問われている。受刑者の子どもたちも視野に入れ、「成長」という軸が世代を超えてしっかり見つめられている。

今度は読者が証人となり、使者となる番だ。

※一橋大教授の宮地尚子さん(平成25年某日地元紙掲載)