朴念仁の戯言

弁膜症を経て

世界の先住民族の叡智を見習う①

東京大学名誉教授 月尾 嘉男さん

 地球の環境問題は憂慮すべき状態になっております。その原因は三つあると思われます。一つは、ある特定の信条を信じるかどうかで人間を判断し、世界を征服してきた「一神教」という宗教です。二つ目は、17世紀以来、「西洋科学」が現代社会で中心となっていることです。これは、もの事を分けていくと真理に到達するという考え方ですが、細かく分けていけば全てが分かるのかといいますと、そうではなく、全体を見失ってしまうのです。三つ目は、「産業革命」による工業技術です。産業革命は、便利にすればするだけ、資源とエネルギーを使うという技術を急速に発展させてきました。例えば、人間は時速4㌔㍍でしか歩けませんが、自動車は時速80㌔㍍で移動できますから、人間の20倍の速さで運んでくれます。ところが、人間が1㌔㍍歩くのに使うエネルギーは約45㌔カロリーですが、自動車が人を1㌔㍍運ぶと、約860㌔カロリー必要です。これもほぼ20倍のエネルギーを使います。これこそが産業革命以降の技術の典型です。このままエネルギーを使い続ければ、石油は長くて100年、金(きん)は今後15年で枯渇します。地球上から金が無くなるわけではありませんが、新たに掘り出される金は無くなります。鉄以外の殆どの金属資源は100年以内に無くなってしまうということです。地球はそこまで危機的な状況に追い込まれているのです。そこで、現在とは逆の世界、つまり、一神教でもなく、西洋科学中心でもなく、便利さのために多量のエネルギーを使う社会でもない世界を見直すべきだと考え、先住民族のことを調べはじめ、「先住民族の叡智に学ぶ」というテレビ番組を作るため、世界中を回っています。今日はこれまで、私が見てきたニュージーランドマオリ族ラップランドに住むサーミ族、そして、アメリカインディアンの人々の生き方を通して、我々がこれからの社会を考える上で役に立つと思われることを、ご紹介したいと思います。

神道時事問題研究より引用)平成21年3月1日発行