朴念仁の戯言

弁膜症を経て

老いの行方

「脳に問題があって、もう務めることができません」
電話の相手はいつもと変わらぬ口調で淡々と話した。
町内会の役員も断ったという。
電話の話具合からは脳の障害は少しも感じられないのだが・・・。
自宅の玄関を閉ざし、外部との接触も遮断しているとか。
それほど深刻な症状なのか。

これまでの労に感謝の言葉をお伝えしたが、人生の終末期に向かう彼(か)の人の言葉としては余りに寂しい。
受話器を置くと、彼が今置かれている生活状況と精神状態が思いやられ、暗澹とした気持ちになった。
恐らく免許更新で医師診察となった、その結果ではないのか。

後日、彼の後任を推薦してもらうため、彼が属する町内会の区長の家を訪ねた。
「(彼は)認知症。去年の9月に電話があってもう後任は決めてある」
物腰柔らかく、笑顔絶やさず、好々爺然とした区長だったが、この時は見かけと裏腹なぴしゃりとした物言いだった。
(彼は人間として)もう終わったと、冷やかな宣告のように聞こえた。

以前に区長に抱いた不快な第一印象の訳がこれで分かった。
直感は真実を見抜く。

高齢化が進み、誰も彼もが認知症を発症する時代なのに、明日は我が身とも振り返らず、憐憫の情も持ち合わせず。
因果応報、他者への思いやり欠く態度が情け容赦ない仕打ちとなっていずれ我が身に降りかかるものを。
前科持ちの長男の手に老い先を握られていることを知りながら。