四月より五月は薔薇のくれなゐの
明るむことも母との世界 相良 宏
わが坐るベッドを撫づる長き指
告げ給ふ勿れ(なかれ)過ぎしことは 宏
相良宏は肺結核で1955(昭和30)年に30歳の若さで病没した。
特効の抗生剤ができるまでの長い間、安静に療養する以外に手立てがない難病であった。
特に伝染力の強い病気ではないが、隔離された環境で過ごさざるを得なかったようである。
4月から5月へ季節は装いを変え、紅のバラはさらに鮮やかさを増す。しかし、彼はいつものように母とのささやかな空間と時間の中にいたのだった。
療養の病院には彼が思いを寄せる女性がいて、彼のベッドのそばで談笑し、自分の過去の恋愛や結婚までも問わず語るのだろう。(僕はそんなこと聞きたくない。二人だけで語らう今この時間が楽しいのに)。女性は後に亡くなり、透明感のある歌の才能を惜しまれながら、彼も30年の生涯を終えたのである。
※高田短歌会の大越巌さん(平成30年11月25日地元紙「わが心のうた」より)
私も下手な歌を一首。
日一日(ひいちにち)母と過ごしつ此の時を
永久(とわ)に願ゐて姿見つめつ 朴念仁