朴念仁の戯言

弁膜症を経て

かたくなだった親に頼らぬ人生

昨年2月、生まれて初めて入院、手術をした。

いよいよ手術時刻が迫ってきた。
背骨に部分麻酔をし、腰から下は感覚を失い、意識もやや混濁してきたその時であった。
わが姉妹が現れて、口々に「兄貴も私たちの仲間入りだね」とほくそ笑んでいるではないか・・・。
手術は進み、「胸は苦しくないですか」「気分は悪くないですか」と女性スタッフの声が心地よく耳元をくすぐる。
そしてその時であった。
わが父母が、部屋の片隅に立っているように見えた。
その顔は慈愛に満ちている。

私はこれまで、人生の大事は自分で決めてきた。
進学、就職、結婚、住宅新築、そして再婚の決断も。
父母は私の決断がうれしかったのだろうか。
寂しくはなかったのか。
もう少し甘えるところがあっても良かったのではなかったか。
「言いたいこと」が多くあったに違いない。
それを言わずに、静かに見ていてくれたことを初めて知った。

病室に戻り、かたくなだった自分を恥じ涙をぬぐった。

福島市の渡辺武房さん75歳(平成30年3月3日地元紙掲載)