朴念仁の戯言

弁膜症を経て

際立つ日本女性

今回は脳の進化と生物についてです。人の脳は生物の進化の過程に応じ3層構造になっています。

まず人の脳で最も深層に存在するのは、呼吸や生殖など個体と種の保存に関わる「爬虫類脳」で、中脳や脳幹、脊髄に当たります。

次に中間層の大脳辺縁系には喜怒哀楽や記憶をつかさどる「旧哺乳類脳」があります。多くの哺乳動物はこの脳までの機能で行動しています。具体的機能としては反射と本能、学習能力などです。

もっとも表層に存在するのが大脳新皮質で、言葉や文字、人独自に複雑な感情をつくりだす「新哺乳類脳」です。

人の行動の原動力となる高い学習能力と深い洞察力や推理力などの優れた知能は、この大脳新皮質から生み出されます。

しかし、人はこの高い精神性と引き換えに失ったものもあります。それが本能です。

人以外の大抵の動物は本能に従い、今を生きるということと、種を残すということに対し、純粋に生きています。そして生殖機能の喪失とともに生を終えます。

しかし、今や人は閉経後30年以上生きます。なぜこれほど長く生きることができるのでしょう。

さまざまな説がありますが、ここに精神代謝が関与していると考えられます。閉経後もさらに成長する精神代謝があるということは、人の生きる目的は種を残すだけではなく、精神の成就、つまり精神の満足のためと言えます。

女性の場合、閉経後、骨吸収が高進し、骨からカルシウムが溶出し60歳代後半には大半の方が骨粗しょう症になります。

女性は骨から出たカルシウムを無駄に捨てているのでしょうか。実は脳で心をつくるために使っているのではないでしょうか。カルシウム不足はイライラの原因になり、あれば精神を落ち着かせることができます。

頑固なおじいさんが多くて、おばあちゃんの多くが優しく柔軟性があるのはカルシウムのおかげかもしれません。外来でお会いするおばあちゃんの中にはヨンさまに恋したり、孫やひ孫の心配をしたり、心豊かな方が大勢おられます。

女性は身(骨)を削って心をつくって生きる最も進化した生物と言えます。その意味で骨粗しょう症は病気ではなく、生理的な現象なのかもしれません。世界一の平均寿命を誇る大和なでしこは生物史上最も進化した生物と言えるのではないでしょうか。

※稲毛病院生活支援課部長の佐藤務さん(平成25年8月26日地元紙掲載)