朴念仁の戯言

弁膜症を経て

「小説とは人間を書くこと」

作家の平岩弓枝が、50回目の節目を迎えた「長谷川伸の会」で、師である長谷川の思い出を語った。平岩は「小説とは物語を書くのではなく、人間を書くことだ」という長谷川の言葉を紹介。「先生が亡くなって50年がたった。世の中も文学の世界も変わったが、この一行があればびくともしない」と力強く述べた。
平岩は1958年、長谷川が主宰する勉強会「新鷹会(しんようかい)」に参加した。翌59年には27歳で直木賞を受賞。だが「賞をもらったからといって急に腕が上がるわけではなく、重荷以外のなにものでもなかった」という。
亡くなる前、病床の長谷川は平岩に「何も心配することはない」と告げ、こう続けた。「君がもし、本当に壁にぶつかったら、僕が出てきてあげる。もし出てこなかったら、壁にぶつかっていないのだと思いなさい」。
平岩は「他の誰がこんなすごいお守りを残してくれたか」と長年の思いを吐露。「先生が見ていてくださる限り、書いていかなければいけない」と語ると、会場から大きな拍手を受けた。

※平成25年7月某日地元紙掲載