朴念仁の戯言

弁膜症を経て

ハチに教わったこと

庭の刈り込みをしていて、知らずにアシナガバチの巣を切り落としてしまったことがある。そのときは、怒ったアシナガバチに顔を3カ所も刺され卒倒しそうになった。

ハチの毒は、ショック症状を起こしたり死に至ることもあるので、注意は必要だ。だが、芋虫を捕食してコントロールするアシナガバチの働きを知ってからは、私はハチをかわいいと思うようになった。こちらがそんな気持ちだと、巣を切り落としたときでさえも襲ってこないのだから不思議だ。それどころか、剪定の際、巣のある枝をぐいぐい揺すっても、羽を震わせながらじっと耐えている。ハチは、人間の気持ちが分かるのだろうか?

わが家の収納庫に、スズメバチが巣を作り始めたので、取り除かずに観察することに決めた。そのために収納庫の扉を開けなければならない。獰猛な性格のスズメバチがそんなことを許してくれるのか⁉

考えついたのが、毎日あいさつをして私のことを覚えさせ、慣れさせる…という作戦。「おはよう、元気?」と言いながら扉を開けた私を見ても、落ち着いているスズメバチを見てにんまりとしていたのだが、小寒い雨が続いたあと、久々に扉を開けると、なんとスズメバチの女王が死んでいた。茫然自失で、しばらくは〝ペットロス症候群〟のようだった。

庭に巣がないのにスズメバチが来るのは、餌か巣の材料を探しているとき。木材に止まって、もぐもぐと口を動かし巣材を集めているときには、すぐそばで観察しても、こちらには見向きもしないはずだ。

彼女たち(働きバチはすべてメス)を刺激するのは、大声を出したり、手を振り回したりすること。香水などの匂いにも敏感だ。逃げればますます追ってくる。慌てずに木になったつもりで気配を消し、行方を目で追ってみよう。巣の場所が分かるかもしれない。自宅周辺に巣があった場合は、行政に問い合わせ、駆除業者を紹介してもらうのが良いだろう。

ハチはこちらの恐怖心や嫌悪感を感じ取る能力にたけている。苦手な相手とどう付き合い、関係をつくるか。人間にも応用できる。ハチに教えてもらったことの意味は大きい。

※オーガニックガーデンプランナーの曳地トシさん(平成21年10月22日地元朝刊別紙タイム掲載)