朴念仁の戯言

弁膜症を経て

足のマッサージが効果的

◆私の健康法

人間は誰でも年を取るもの。体は確かに年とともに衰えていくが、年を取ったら取ったで、謙虚に受け入れた方がいい。齢(よわい)を重ねることは、恥ずべきことではない。若く見られたいという気持ちは分かるが、見た目ではなく、真の健康が一番。だから、私は、抗老化、抗加齢を意味する「アンチエイジング」という言葉は、あまり好きではない。

私は「生活しながら、いつでもできること」を健康法のモットーにしている。特別な方法ではないので、紹介したい。

朝起きたら、まずは布団の中でストレッチ。両腕を思い切りグーッと伸ばし、手のひらを半回転させる。腕を伸ばす方向は、斜め上、横、斜め下。それを三回ほど繰り返すと、肩の筋肉がほぐれてすっきりする。トイレに行く時は、太ももの付け根にあるリンパ腺をトントンたたく。たたくと下半身が温まるのだ。便座では、太ももと同じ高さまで足首を上げる。大腿(だいたい)四頭筋のトレーニングだ。歩いたり、バランスを取ったり、弱くなってきたひざをサポートする大切な筋肉だ。

キッチンでお湯を沸かす間、交差点で信号が青に変わる間は、かかとの上げ下げ。電車で座る時にはひざを閉じる。よく、ひざを開いて座っている人を見るが、内側筋が弱っているからだろう。脚を開き、口まで開けて寝ている人の姿は、あまりいいものではない。

ある時、息子のスキーのコーチから「田部井さんの歩き方は変ですね。少しねじれているように見えますが」と言われた。ちょっとムッとしたが、「肩が凝りませんか」と聞かれた時、「何で分かるんだろう」と思いながらも「そうなんです。肩が凝って眠れないのが私の最大の悩みなんですよ」と正直に答えてしまった。

靴屋さんでシューフィッターと言われる方に見てもらうと、私は左右の足の長さが違うというのだ。右足が左足より少し長いという。そういえば、マラソンのシドニー五輪金メダリストの高橋尚子選手も、左右の足の長さが微妙に異なり、シューズ担当のプロの方が、靴底を調整した特別なシューズを作って金メダル獲得に貢献したという裏話を思い出す。

足のマッサージ、ストレッチが体調に深く関係していると知った私は、パンプス類はパーティーの席でも履かないことにした。

体の器官で、余分なものは何もない。足の指が五本ついているのに、それを一つに包み込んでしまう靴下の生活にも不満持ち、今では、水虫の方がよく履くという五本指に分かれた靴下を履いている。山に行った時、「お指さま」と呼ばれんばかりに、足の指をマッサージしている。足のマッサージがこんなにいいもんだとは、やってみた人でないと分からない。

よく、足の指で「ぐー、ちょき、ぱー」をするといいと言われるが、その通り、家に一人でいる時、足の指で物をつかむのも、かっこうのトレーニングだ。肩が凝る人は、肩をもむのではなく、足をもむ。不思議と思うほど、楽になるはずだ。足のマッサージは、今では私の健康法の秘訣となっている。

※登山家、田部井淳子さん(平成21年5月28日地元朝刊掲載)