朴念仁の戯言

弁膜症を経て

本当に汚いものは何?

オーガニックガーデンのすすめ 16

人間は自然の恵みで生かされている。では、人間が自然にお返しできることって、何だろう。

それに答えてくれるのが、写真家で「糞土(ふんど)研究会」の代表、伊沢正名さん。伊沢さんは「人間ができるお返しは、うんこをすること、死んだ後の体を土に返すこと」ときっぱり言う。

これはあくまでも排泄物を下肥えとして使い、死体は土葬にするという条件での話。現代社会では、その両方ともがほとんどできていない。それどころか、文明社会はし尿処理施設を造り、膨大な税金とエネルギーを投入して、廃棄物として処理している。

そんなことに憤りを感じた伊沢さんは、自らを「糞土師」と名乗り、野ぐそをこれまで一万回以上したという一風変わったオジサンだ。

私は今まで、小さなものが大きなものに、草食動物が肉食動物に食べられるという「生食連鎖」しか考えていなかった。

伊沢さんの話を聞いて、初めて「腐食連鎖」という言葉を知った。生き物の死体や糞や、落ち葉や枯れ葉を食べて分解する生き物がいて、最後はみな土にかえっていくことをいうのだそうだ。

考えてみれば、森は生き物の死体や糞、落ち葉や倒木であふれているなどということがない。なぜ秩序が保たれているかといえば、人間に嫌われるウジやヤスデ、シロアリや菌類が分解しているからだ。特に菌の力は偉大で、猛毒のダイオキシンさえも分解する菌が結構いるという。

人間の体の細胞の数は60兆個ほど。皮膚や腸内にすむ細菌は100兆以上といわれている。それらの細菌がバリアーとなって、人間を病気にさせるような菌から、体を守ってくれている。数からいえば、人間がこれらの細菌に共生させてもらっているといえるかもしれない。

土も人間の体と同じこと。たくさんの菌によって多様な世界が形づくられ、健康な土として植物を育てることができるのだ。うんこや泥は汚いといわれるが、本当に汚いものは生分解が難しい化学物質や放射能ではないのか。

私たちは、便利さや清潔さを得るために、何を失ったのか、考える時期に来ているのかもしれない。

(オーガニックガーデンプランナー 曳地トシさん)

※平成21年4月9日地元朝刊別紙タイム掲載