朴念仁の戯言

弁膜症を経て

世界の先住民族の叡智を見習う⑤

韓国の初代文化大臣を勤めたイ・オリョン氏は、日本文化は、物事を小さくして、豊かな生活ができる仕組みを作り出した世界でも珍しい文化だと述べています。私は二年前、千玄室氏にお目にかかり、「茶道とは何ですか」と率直にお聞きしましたら、「一杯の抹茶を飲む時に宇宙を考えることだ。そこには宇宙の五大要素がすべて含まれている」と言われました。つまり、火で水を沸かし、お茶の木から抹茶を作り、金属の窯で湯を沸かし、土で作った茶碗で飲むと考えれば、火・水・木・金・土がこの一杯の抹茶に全部込められているということです。宇宙誕生以来137億年分の時間をほんの一杯の抹茶の中に凝縮してしまうというのが茶道です。そこで、いかに西欧と日本では大小の違いがあるかということを見ていただきます。お客様をもてなす時、欧米では大きな建物に招くことが立派とされ、ルイ14世が宇宙を表現させたといわれるベルサイユ宮殿は800㌶の敷地です。一方、日本は茶室のような、わざと粗末に作られた建物にお招きし、庭もせいぜい数十坪、飾りも掛け軸と一輪挿しです。食事でも西欧では多くの食器を使い、次から次へと料理を出しますが、日本では一膳の箸と重箱に詰められた料理だけで大変なご馳走です。また、「もったいない」の次に日本が発信しようとしている風呂敷なども縮小の例です。さらに、俳句は17文字あれば、森羅万象を表現できるという、日本芸術の極致だと思います。いかに日本の縮小文化が優れているかということです。日本の文化は世界では異質ですが、西欧的な文明が浸透する前の先住民族は大体このような生活をしていたのです。現在の日本の政治・経済関係は完全に西欧に支配されそうになっていますが、日本は先進諸国の中で唯一貴重な文化をここまで維持してきた国なので、この文化だけは今後も維持していきたいと思っています。有難うございました。

(第506回研究会 平成20年12月20日、松山市伊予豆比古命神社会館での講演会を収録・東京大学名誉教授 月尾 嘉男さん ※神道時事問題研究より引用)平成21年3月1日発行