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朴念仁の戯言

弁膜症を経て

微光のなかの宇宙(中公文庫)

作家の司馬遼太郎さんは小学校低学年のころ、化け物の絵を描きたい衝動に駆られ、実際に空想して描いたという。
上級生のときには図画に最低の点を付ける先生に紙風船を模写するように言われたのがいやで、キノコのネズミタケを描いて反抗したこともある。なぜか。すきやきに入っていたのを食べたら苦(にが)くて吐きだし、名前も形も嫌いだったからだ。
中学では西洋の老人の顔を描くのに凝った。この衝動は習癖になり、作家の道に進んでからも長電話のさなか、メモ用紙に無意識に描いた。話が済めば終了の儀式のように丸めてごみ箱に捨てる。
習癖に慰められた経験も。勤務先で気持ちの通じがたい上司と不愉快な会話をしていたとき、不意に相手がバッタに見えた。何かの拍子でビル街を歩いてきて自分の前の机を隔てて座っていると。これでいい、と思ったそうだ。
(平成21年2月5日地元紙「編集日記」より抜粋)