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朴念仁の戯言

弁膜症を経て

時代性より世代性重視

芥川賞受賞者に聞く

契約社員としてつつましい生活を送る29歳の独身女性を描いた津村記久子さん(30)の小説「ポトスライムの舟」が芥川賞に決まった。働きながら執筆を続ける津村さんは「大きな望みやお金が無くても楽しく生きていけると訴えたかった」と語る。
―受賞の気持ちは。
候補になるだけで十分なのに自分でもすごいと思う。作品に普段の暮らしで自分が実感したことを投影しました。以前はあらかじめ結論を考えてそこから逆算して書いたりしていたが、今回は自由に書けました。
―執筆の動機は。
大学時代のクラスメートが30歳ぐらいで再会したときに生じる〝立場の違い〟を書こうと思いました。登場人物がすべて女性なのは、男性よりも違いを明確に出せると考えたから。わたし自身現在30歳で、大学を卒業したころはちょうど就職氷河期。「あの時に必死に内定を取ろうとしたのは間違いでは」との思いもあり、「成功していない30歳の女性」を考え付きました。
ワーキングプアの問題も反映されている。
執筆したのは昨年の7月から9月。こんな不況は予想しませんでした。重視したのは時代性より世代性。今の30代の女性を描きたかった。作品中にシングルマザーになる友人が出てきますが、これはわたし自身が母子家庭育ちで「母子家庭になる瞬間」を描きたいと思ったから。実際に母から父と別れたころの話を聞きました。
―作家を志した理由は。
「100歳まで生きる」と宣言していた祖母が5年前に80すぎで亡くなり、自分もいつ死んでもおかしくないと感じました。「好きな小説を書いてみよう。3年間は続けよう」と考え、現在は会社に勤めながら、帰宅後いったん睡眠を取って夜中の二時から四時に執筆します。会社を辞める気はありません。働いているからこそ小説を書けると思っています。
―今後の抱負は。
取り上げる人物の範囲を広げながら、自分の実感が伴うものを書き続けたい。結論を導くために思っていないことまで書きたくありません。電車の中吊りの見出しとか、ネットニュースの見出しを見て「ちょっと違うんじゃないの?」と思うことがあって、同じように〝世間の声〟を疑う人に作品を発信できたらと考えています。

平成21年1月19日地元朝刊掲載