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朴念仁の戯言

弁膜症を経て

利益よりも教育優先

社会

『ものづくり脈々5 逆風に挑むふくしまの技』家族は仕事の原点

「専門知識を持つ君が必要なんだ」。平成4年春、日大理工学部の男子学生を朝日ラバー(さいたま市)社長の伊藤巌は熱っぽく口説いた。今は会長となり74歳の伊藤は「社長業の三分の一は人材の発掘と育成」との信念を持つ。つてを頼って自ら大学に足を運び、人材獲得に走り回っていた。学生は伊藤の熱意に心を動かされ入社を決意した。この学生が後に主力商品である「アサ・カラーLED」開発の端緒をつかんだ技術グループ課長の市川明(39)だ。
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創業者の伊藤は本宮町(現本宮市)生まれで、安積高から日大工学部を卒業した。ゴム会社に入社し東京工場の営業で新規取引の実績を挙げた後、36歳で独立した。
幾つかの誓いを立てた。第一に掲げたのは「家族に迷惑を掛けない」。男が仕事をしていく上で、家族は安らぎであり原点。その家族を心配させることはあってはならない―という考えだ。この誓いは社員を大切にする社風をはぐくんだ。
例年、売り上げの10%は必ず社員研修費に回した。約20年前、利益が上がらず経費削減を進めるため、総務部が研修費を削減しようとしたことがあった。「なぜ社員を大事にしようとしないのか。利益より社員教育の方を優先しろ」。伊藤は声を荒らげ、減額を頑として許さなかった。
こんなこともあった。泉崎村にある福島工場の最寄り駅はJR 泉崎駅。駅に降り立った伊藤は構内にごみが散乱しているのに気づいた。「無人駅とはいえ、泉崎駅は福島工場の玄関口だろう」。伊藤の一言で毎週火曜日の朝7時半から一時間、福島工場と福島第二工場の社員約260人が5人ずつローテーションを組んで駅の清掃に当たるようになった。これは16年間続いている。
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伊藤は経営の一線を退いた今でも社員教育に情熱を傾ける。平成19年春からは、私財を投じて40歳代の社員二人を岩手大大学院博士課程に通わせている。「いずれは工学博士を5人育てたい」との思いからだ。
東北ポリマー懇話会の会長を務め、学会やセミナーに出席する日々。「経営とは人づくり。カネは二の次」。可能な限り工場に顔を出し、若手社員にアドバイスを送り続けている。

平成21年1月7日地元朝刊掲載