朴念仁の戯言

弁膜症を経て

医師の嘆き 自業自得

『医療漂流5』萎縮の現場から ※平成20年4月25日地元朝刊より。

神奈川県大和市にある大和成和病院は、中規模ながら心臓血管外科の分野で高い専門性を持つ医療機関として知られる。
院長の南淵明宏医師(50)が手掛ける心臓外科手術は年に200例近く。国内で突出した数を誇る〝トップランナー〟は「崩壊」「萎縮(いしゅく)」と医師らが嘆く現状について「自業自得」と突き放す。
二十代。一向にメスを握らせてもらえない環境に嫌気が差し、大学の医局を飛び出した。海外の医療現場でひたすら手術の腕を磨き、帰国後、症例の数を重ねた。
「技術より研究や論文の実績を重視する医局が頂点に君臨し、事故が疑われるケースでは患者の死因究明どころか隠ぺいに走ってきた」と今の医療界を厳しく批判する。
同病院で3月下旬、重い心臓病の六十代女性の手術が行われ、記者も立ち会った。
心電図モニターの機械音が鳴り響く。患者の心臓がいったん停止。人工心肺装置のチューブ内を、真っ赤な血が流れ出した。
左心房から左心室に流れる血液の逆流を防ぐ僧帽弁の閉鎖不全。悪くなった僧帽弁を切り取り、人工弁に置き換える予定だった。
心臓を切り開いた南淵医師の手が止まった。弁を切り取らずに削って整える「形成術」で済むかもしれない―。「できれば形成を」と望んだ家族の言葉が頭をよぎる。
トライして駄目だったら当初通り、人工弁の置き換えに切り替えなくてはならず、時間の浪費になってしまう。
数十秒後。メスを持つ手は、弁の形成へと動きだした。
二時間あまりにわたる手術終盤、心臓を再び鼓動させた。血液の逆流があればオペはやり直しだ。緊張が走る。麻酔科医が告げた。
「逆流はありません」
見学した東京慈恵医大4年の阿見祐規さん(22)は「判断が速く技術もすごい。患者をこの手で直接救うことができる心臓外科に魅力を感じる」と目を輝かせた。
「失敗すれば地獄の果てまで(責任を)背負う覚悟でやっている。それがプロ」。南淵医師
はそう言い切る。隠し事のない診療姿勢を理解してもらおうと、手術の様子を毎回ビデオ撮影、希望する患者に渡している。
若い医師の間でも、勤務が過酷で訴訟リスクが高い産科や小児科を避ける傾向があるとされるが、南淵医師は懐疑的だ。
「きつくても、あこがれ、目標となる存在がいれば後から続く人材は出てくる。そうならないのは、責任と誇りを持つ医師が少ないからだ」