お正月 二ねん 野上房雄
お正月には
むこうのおみせのまえへ
キャラメルのからばこ
ひろいに行く
香里の町へ
えいがのかんばん見に行く
うらの山へうさぎの
わなかけに行く
たこはないけど たこはいらん
こまもないけど こまはいらん
ようかんもないけど ようかんはいらん
大きなうさぎが、かかるし
キャラメルのくじびきがあたるし
くらま天ぐの絵がかけるようになるし、
てんらんかいに、一とうとれるし
ぼく
うれしいことばっかしや
ほんまに
よい正月がきよる。
ぼくは、らいねんがすきや。
(理論社刊『つづり方兄妹』所収)。
「らいねんがすきや」と書いた「ふうちゃん」は、その「らいねん」の春に病死した。
学校からの帰り道、雨に降られて、傘がなくてびしょぬれにぬれてしまい、肺炎になったのだ。
この国にこんな時代があったことを、こんな少年がいたことを──いまもいるかもしれないことを──忘れてはならないと思う。
※平成20年1月18日地元朝刊より。