朴念仁の戯言

弁膜症を経て

言葉の力

正月三が日も過ぎ、平常の生活に戻って年初の投稿。

何を書こうか、前回の「日雇いの夢」の裏話にしようか、つらつら考えた挙句、新聞の切り抜き記事をネタに書こうと決めた。

10年前の1月20日の地元紙サロンから、タイトルは「ありがとうの不思議な力」。

筆者は猪苗代町在住、内科医の今田剛さん。

人はつらい境遇に置かれると、自己弁護から相手の良くない点を見るようになり、周囲を責めるようになるという。

そんなものかな、と他人事に思っていた今田さんだが、オーストラリアの勤務先の病院で文字通りの体験をする。

異国の勤務で強度のストレスに見舞われ、体調を崩し、その間、異国での検査方法や医療器具に批判的な思いが日増しに募り、口に出さずともその気持ちが周りの看護師や技師に伝わったものか、彼らの冷ややかな視線を感じるようになった。

職場に言い知れぬ不満を抱えながらも復調してから少林寺拳法ブリスベーン支部に通い始める。

そこで後に今田さんの人生に強い影響を与える日本人と出会う。

某日、練習の後、その人物が今田さんに言った。

「相手に触れず投げる先生を目の前で見たことがある。その先生は、心の奥底から感謝をすれば誰でもできるようになると言っていた」

それを聞いた今田さんはバットで頭を殴られたような衝撃を受けた。

オーストラリアでは日本との比較ばかりで周囲の良くない点を探しては心で責め、感謝の気持ちを微塵も持ち合わせていなかったことに気付き、深く反省した。

次の日から今田さんは看護師たちに事ある毎に「ありがとう」の言葉を言い続けた。

日置かずして看護師たちの態度が変わり始めた。

紅茶を入れてくれたり、ケーキやパンを買ってきてくれたり、自宅のバーベキューに招いてくれたりと親密な態度を見せるようになった。

今田さんはこの変化に大きな驚きを覚えると同時に、周囲を変えるにはまず自分が変わること、そのことを強く実感した。

それからと言うもの、仕事が楽しくなり、多くの友人に恵まれ、地獄の職場が天国に変わった。

一人の人間が変わることによって世の中が変わり得ることを改めて実感した。

帰国後、「ありがとうございます」を言い続けて視力が回復した人や、癌が治った人の話を聞いた。

感謝の心は、副交感神経を刺激する効果があり、難病治療に有効であると医学的に説明する免疫学者もいるとか。

今田さんの末尾は次の文で締め括られていた。

「感謝の言葉は、話す方も聞く方も気持ちが良い。一人でも多くの人の心が、感謝の言葉や良い言葉で満たされ、より健康的で明るい人生になるよう祈っている」

 

「感謝の言葉、良い言葉」は、釈尊が説かれる八正道の一つ「正語」と重なる。

良くも悪くも吐いた言葉は様々な形でいずれ我身に返ってくる。

「病は口より入り禍は口より出ず」、「和顔愛語」の言葉もある。

常日頃、心したいものだ。