田舎に帰ると優しくなれる、弟はそう言って頬を緩ませた。
明日は帰るという日、夕食時から弟の様子は違っていた。
寄せる感情を咀嚼しては呑み込む、その反芻の只中にいるものか、いつもより言葉少なだった。
幸せと嬉しさと、哀しみがごちゃ混ぜになってるんだろ。
指でそっと触れただけでも溢れ出そうな感情に。
酒のグラスだけのテーブルで俺たち三人は魂を通わせた。
兄、妹、弟の境界を越え、もっと深いところで繋がった気がした。
心配するな。
金も酒も食い物も、幸せの道具。
幸せに遣われて喜んでるよ。
そうしてまた遣ってと舞い込んでくるものさ。
渥美清か、いいよな。
ちあきなおみもいい。
演技に、唄に、その人の人生の陰影が感じ取れる。
弟に言われるまで気付かなかった。
お前の心の襞(ひだ)の深さ、豊かさを知ったよ。
いろいろあったんだろ。
悔しかったよな。
堪えたんだよな。
いい男になったな。
いい男になった。
この家族の一員に生まれ、母、妹、弟と今生過ごせることの喜び、あぁーそれを表す言葉は何だろう。
かけがえのない時をありがとう。
しばらくは優しい気持ちを抱いて他人(ひと)に応じられそうだ。
近いうちまた会える日を楽しみにしているよ。
それまで皆の顔を思い浮かべ、一度きりの日々を大事に生きていこうな。