朴念仁の戯言

弁膜症を経て

喪失

先月の6月10日、同僚の嫁さんが亡くなった。 享年51。 2年半に及ぶ闘病生活。 先日、同僚の家を訪ねた。 「会社を辞めたい」と本人からも、彼をよく知る関係者からも耳にして気になっていた。 部屋には11年前に家族3人で日光市を旅行した時の写真7、8枚が、…

近代化によって失ったもの

私は東京都の都心部に住んでいるが、ビルの建ち並ぶ表通りから一歩裏に入るとまだ2階建ての木造住宅が所狭しと拡がっている。 しかしほとんど気付かぬうちに木造住宅群は取り壊され、高層のオフィスやマンションに建て替っている。しかも開発の規模は次第に…

味わい深い人生の始まり

あれから10年。 心音は一時も途切れることなく、命をつないでくれた。 毎晩床に就いて胸に手を当て、心臓、頭、眼、耳、鼻、口、首、肩、腕、五臓六腑、金玉、肛門、脚の順にさすり上げ、五感を感じられる我が身体に感謝を述べる。 今日一日の命をありがとう…

幸せは暮らしの中にある

日本で、世界で、いろんなことが起きている。 その度に呆れ、怒り、悲しみ、虚しさが募る。 その度に何もできない、何の力も才能もないボンクラの自分が見えてくる。 そんな日常の中、頭の隅で消え入りそうにしている想いを引っ張り出して心棒に力を注ぐ。 …

心のありかた

昨日、秋葉原殺傷事件の加藤智大の死刑が執行された。 「これほどの犯罪に極刑もやむを得ないと改めて示すことが、事件の防止につながる」 法務省の幹部はそのように話して死刑制度の正当性と犯罪抑止効果があるとの見方を示した。 東京五輪・パラリンピック…

念じて一票を託す

7月10日は参議選の投票日。 今まで何度も投票所に足を運んだが、一度たりとも選挙に期待したことはない。 立候補者の空疎な街頭演説は、その時だけの犬の遠吠えと耳を塞いだ。 否、塞ぐまでもなく、大言壮語を吐き、虚言、妄言の言葉を並べ、真実を語らない…

人生を謳歌する

今日は9歳の誕生日。 M医師とK医師、そして当時のT病院の医療関係の皆さんのお陰で今の命があります。 この9年間、良きも悪きもいろいろありました。 すべてに感謝です。 本当にありがとうございます。 こんな愚かな凡夫が生き永らえることができたのも何か…

地球が動く

今朝はすることもなく、ただ気が向いたから湖面に漂う木の葉を集めるように、ここ最近の想いを記すことにした。 露国のウクライナ侵攻。 連日、ウクライナの惨状と、ゼレンスキー大統領の顔がテレビ画面に映し出される。 16日、同大統領は米連邦議会でオンラ…

あんこ屋の倅

2月2日朝刊のお悔やみの欄で中学校の同級生Tが亡くなったことを知った。 命日は1月31日。 一昨年、まちの正月市で立ち並ぶ露店をひやかし程度に眺め歩いている途中でTを見掛けた。 Tは出店していた。 「T、何してんの?」 急な出会いに驚いて声を掛けると、 …

恩寵

今日の未明、鮮明に、思いもしない夢を見た。 懐かしい感じのする友人らしき人に連れられ、旅館のような一室に招き入れられた。 そこは一般的な畳敷きの、少し広めの部屋。 部屋には4、5歳ぐらいの男の子がいた。 男の子は私と目が合うと、直ぐ様、私の元に…

人生は一回限りの旅

転機は31歳の時。 がんの専門病院に移り、私よりはるかに厳しい現実に向き合う人々の話を聴くようになった。 金融機関でバリバリ働き、27歳で逝った岡田拓也さんは責任感の強い努力家だった。海外留学も志し、休日も勉強に励んでいたある時、進行性スキルス…

令和4年、新年に想う

会話の間を埋めようと、その場凌ぎの言葉を発するな。 昨日、弟と電話で新年の挨拶を交わしてまたしてもそう思った。 無駄に饒舌になってしまう。 だから昔から電話で話すのは好きではなかった。 身内以外の人間と対面して話す時もそうだ。 間を気まずく感じ…

一瞬の出会い

今から20年前以上になるが、仕事で作家の津村節子さんに会いに行くことになった。 当時の細かいところまでは覚えていないが、約束したその日、新幹線から乗り継いで中央線の吉祥寺駅を降りると、ジブリ美術館の文字が目に付いた。 辺りを見渡すと、そのため…

コロナ禍における温もり

触れ合い 温かさに安らぐ 私たちは今、コロナ禍で、身体接触を避けるように促されている。 でも、子どもはもちろん、大人だって身体接触は大事だ。心細いときほど、温かくて柔らかい、息づくからだに触れたいと思う。人肌に触れることで、緊張は和らぎ、昂ぶ…

故郷

死への助走を意識し始めた齢となり、何かの拍子に人生の一場面が思い出されることがままある。 楽しいことよりもむしろ後悔や口惜しい想いをした場面ばかりがやたらと思い出され、否応なしに負の感情が呼び起こされる。 寝る前にそれが起きると始末に負えな…

大転換の世にぴったんこ

昨晩、家事を終え、一息ついてテレビを見ていたら大口を開けた俳優らが何かを頬張っていた。 路線バスの運行時間帯に前もって決められた、評判の飲食店を廻り切れるかどうかの内容らしい。 男どもに混じって紅一点、三十路の女が次から次へとラーメン、ステ…

何もかも炙り出される世の中に

最近、本を読まない。 細かい字を目で追うのが面倒になったのもあるが、小説は特に読む気がしなくなった。 テレビは、と言えば、ゴールデンタイムの民放系なぞ害悪の極みで飽食のオンパレードに芸人のバカ騒ぎには目の毒とすぐにチャンネルを変えるか、スイ…

妙な予感

2011年2月22日、ニュージーランドでM6.1の大きな地震(クライストチャーチ地震)が発生し、日本人28人を含む計185人が犠牲となった。 翌月の11日にはM9.0の、日本の観測史上最大規模の地震(東日本大地震)が発生した。 そして、それから10年目となる今年、2…

街の灯

母の誕生日。 ささやかに妹と昼食パーティーを催し、母を祝い、寿司をほおばり、弟から送られてきた母への菓子箱を広げ、そのお福分けにあずかり、幸せなひと時を過ごした。 その後、映画を見た。 母は、昼食後の気持ち良さからか、リクライニングチェアでう…

施し、施されて生きる

胸裏の想いは、言葉にせねば独りよがりで終わる。 言葉にして我が耳に聴かせ、我が身体に沁み込ませる。 何度も何度も言葉にして心確かに、無意識の中に落とし込んでいく。 その内、無意識化された想いが無意識的に少しずつ行動に現れ、現実化していく。 巷…

夢うつつに

何故ここに居るのだろう。 通勤途中、車窓から見える田んぼ一面の雪景色に心浄められて、ふと思う。 夢うつつに漂い、少しずつ自分の存在が消えていくような不思議な感覚に包まれながら。 私が仕組んだ虚構の世界。 信号が青に変わり、現実に引き戻される。 …

世界の、人類の変わり目に

間もなく今年が終わる。 感慨深く振り返りもするが、時間の概念なぞ人間が考えたもので今年も来年もない。 今しかない。 今あるだけ。 その連続の最中に何もかにもが存在している。 日常の無常さを、コロナで全世界の人類が否が応でも共有させられた一年。 …

The Wheel of Life 6

第10章 蝶の謎⑵ 収容所が解放され、門があけられたとき、ゴルタは怒りと悲しみのきわみで麻痺状態におちいっていた。せっかくの貴重な人生を憎しみの血へどを吐きながらすごすことが虚しく思えてきた。「ヒトラーと同じだわ」とゴルタがいった。「せっかく救…

The Wheel of Life 5 

第10章 蝶の謎 ⑴ 蝶だった。 みると、いたるところに蝶が描かれていた。稚拙な絵もあった。細密に描かれたものもあった。マイダネック、ブーヘンヴァルト、ダッハウのようなおぞましい場所と蝶のイメージがそぐわないように思われた。しかし、建物は蝶だらけ…

The Wheel of Life 4

第3章 瀕死の天使 金魚鉢にはもうひとつベッドがあった。そこにはわたしより2歳年長の少女が横たわっていた。いかにもひ弱な感じで肌が青ざめ、透きとおっているようにみえた。翼のない天使、磁器でできた小さな天使を思わせた。その子を見舞う人はいなかっ…

The Wheel of Life 3

第2章 さなぎ どんな人にも守護霊または守護天使がついていると、私は信じている。 霊や天使は人間の生から死への移行に手を貸し、生まれるまえに両親選びを助けてくれているのだ。

The Wheel of Life 2

第1章 偶然はない 両親の推測によると、わたしはまじめに教会に通う、しとやかなスイスの主婦になるはずだった。 ところが、いざ蓋をあけてみると、なんとアメリカは南西部に居を定め、この世よりははるかにすばらしく荘厳な世界の霊たちと交信する、依怙地…

The Wheel of Life 1

エピグラフより。 地球に生まれてきて、あたえられた宿題をぜんぶすませたら、もう、からだをぬぎ捨ててもいいのよ。 からだはそこから蝶が飛び立つさなぎみたいに、たましいをつつんでいる殻なの。 ときがきたら、からだをてばなしてもいいわ。 そしたら、…

The Wheel of Life

弁膜症の初期症状が表れ、初めてカテーテル検査を受けた十数年前。 その後、月一の割合で通院し、診察ついでに栄養指導を受けるようになった。 その日、指定の時刻に栄養指導室に出向くと、担当の栄養士は入院患者の指導で不在だった。 別の栄養士が「検尿し…

同じ人間なのに

母国を追われ、レバノンに逃げてきたシリアの人たち。 ベッドに横たわる年若い男性。 癌になった母親の治療のため自分の腎臓を売った息子。 術後のまだ痛みが続く左脇腹の、斜めに走る30㎝ほどの手術痕を見せ、「母の治療のためだから(臓器売買を)後悔して…