朴念仁の戯言

弁膜症を経て

老い

老いの行方

「脳に問題があって、もう務めることができません」電話の相手はいつもと変わらぬ口調で淡々と話した。町内会の役員も断ったという。電話の話具合からは脳の障害は少しも感じられないのだが・・・。自宅の玄関を閉ざし、外部との接触も遮断しているとか。それほ…

春彼岸に思う

この世は、肉を纏った100年そこらの小旅行。人として喜怒哀楽、四苦八苦を味わい、魂を磨き、やがては肉を脱ぎ捨て、異界へ還る。歳を重ね、残された年数を数える。平均寿命からすれば折り返して10年、肉体の死は少しづつ現実味を帯び出した。時間という概念…

あるがままに

春のような日差しが、とてもまぶしく感じられる。私の心にも変化が表れてきたようだ。 病をがっちりとつかんで、終活にとらわれて、むなしい日々を送ってきた。幸せであっても、過ぎ去った楽しかったこと、良かった出来事などを、いつまでも引きずって、これ…

お隣の独居老人 覚悟の旅立ちか

一昨年の年の暮れ、お隣の独居老人が救急車の要請や警察、市の福祉課職員の呼び掛けにも応じないので、ドアの強制解除となった。最悪の覚悟をしていたが、生きていてほっとした。しかし誰が見ても栄養失調と分かるので、「病院に」と言っても、こたつ布団に…

浮世のはかなさ 浮かぶ雲に思う

ふわっと浮かぶ雲にあれこれ連想しながら、浮世のはかなさに浸っている。畑の雑草とは休戦中の安らぎの中で、つかみどころのない不安に駆られるのは数え86歳の故でしょうか。亡き母を偲べば、89歳の坂は越せなかったが、「86になってみな」と言っていた。そ…

輝いていた時代生きる

長年農業に携わってきた80代の男性は、早朝から起き出して仕事をする働き者だ。まだ暗いうちから味噌汁を温めようと鍋をガスコンロにかけるが、忘れて水分がなくなる。ピーピーと警告音が鳴って火が消えるが、鍋は黒焦げ。家族は警告音で目覚める。一方、本…

孤独死

私はその人が亡くなったことを新聞のお悔やみ欄で偶然知った。その人というのは、同じ町内に住む80歳を過ぎたお年寄りだった。夜中に救急車が来てそのまま亡くなったという。夫婦二人暮らしで、奥さんは寝たきりの状態だった。近所付き合いがなく週2回来るデ…

バレンタイン命日

11年前に逝った父の祥月命日は2月14日、バレンタインだった。享年73は若すぎるけれど、54歳で最初の脳梗塞発作を起こし、以後、いくら言っても喫煙を止めなかったゆえ、さらに二度の発作で寝たきりになり、関節リウマチや心筋梗塞を併発した果ての肺炎による…

からだの声に耳傾けて

年を重ねて あきらめ上手に 親しい付き合いの人たちが、このところ続いて大病をしている。仕事が忙しすぎたとか、長年の連れ合いの介護で、自分のからだを顧みる暇がなかったために病気の発見が遅れた人もいる。気にかかっているが何もできない。みんな60…

若いころ下向いてた

老いの哲学⑧ 俳人宇多喜代子(うだきよこ)さんが語る 私が直接、俳句習った桂信子いう人に「一本の白髪おそろし冬の鵙(もず)」いう句があるけど、老いは不意打ちに来ますわね。じわじわ来るようである日、突然。こないだも私の後ろ姿を写真に撮った人がお…

見えない力

「これで終わったな」14日目の鶴竜戦で力なく土俵を割った姿にそう思った。大方の国民もそう思っただろう。稀勢の里の優勝は消えたと。13日目の日馬富士戦で手痛い一敗を喫した上に致命的な怪我を被(こうむ)った。痛みでその場を動くこともできずに顔…

社会性が生みだした長寿

霊長類学者 山極 寿一(やまぎわ じゅいち)さんが語る 霊長類で「老い」がはっきり見て取れるのは、人間だけですから。「おばあちゃん仮説」というのがあってね。雌が「自分の繁殖をやめて娘、息子、若い世代の繁殖を手伝って、孫世代の生存価を高める」と…

人間は年齢相応に

みにくい年月のゴマカシ 絵本「100万回生きたねこ」で知られる佐野洋子さん。今年70歳となり、雑誌では再発したがんとの闘いを明らかにしている。年を重ねていくことについて寄稿してもらった。 ◇ ◇年月に逆らう生き物がいるだろうか。がんばっているのは屋…

こびなければいい

画家の堀文子さんが語る「老いの哲学」② 昨年、入院いたしまして。熱でうなされていたら死に神が見えました。テナガザルのようなのが私の背中にしがみついている。絵描きなもんですから、映像人間なんでしょうね。〝死〟が形になって現れる。おもしろいです…