朴念仁の戯言

弁膜症を経て

人生

使命に生きよ ①

(「堀江遊郭6人斬り」から生還して退院時のこと) 私はいよいよ今日、退院することになりました。院長さんを始め、婦長さんや、その他の先生方、看護婦さんたちに、お礼やらご挨拶に参りました。さてこの病院を出るとなれば、何となく心残りでもあり、4年ぶ…

それでよしとする

たどり着いた「半隠居」 20代後半くらいから、隠居に憧れていた。山口瞳の「隠居志願」(新潮社)を読んだのがきっかけだ。「人生50年と思い定めて、ヤリタイコトヲヤルというのが男の一生なのではないか」 わたしは仕事よりも家事を優先したかった。なるべ…

東京大空襲の日 夫まさに間一髪

戦争の真っただ中でしたが、夫は旧制中学を終え、大学受験のため、伯父夫婦を頼って上京しました。食糧難の時代。宿泊するためには、食料を持参する必要がありました。それを工面するため、義母はたった一枚の銘仙の着物とコメを交換して、夫に持たせてくれ…

かたくなだった親に頼らぬ人生

昨年2月、生まれて初めて入院、手術をした。 いよいよ手術時刻が迫ってきた。背骨に部分麻酔をし、腰から下は感覚を失い、意識もやや混濁してきたその時であった。わが姉妹が現れて、口々に「兄貴も私たちの仲間入りだね」とほくそ笑んでいるではないか・・・。…

何回でも転び 起きる

芥川賞作家にして慶応大の教壇に立つフランス文学者。時には金原亭馬生(きんげんていばしょう)門下の二つ目として高座にも上がる荻野アンナさん(60)は多方面で活躍中だが、20年ほど前からうつ病の治療を続けている。発症のきっかけは、親の介護だった。 …

少年時代の思いが原点

自由な発想と色使い、思わずクスッと笑ってしまう物語が魅力の絵本作家・五味太郎さん。なりたかったわけではない70歳を過ぎ、「気がついたら絵本しかやってないな」と顧みる。この「自分に合う表現の仕方」に出会ってから40年を超えた。 最近、作家としての…

霊になった上皇を慰める

西行 平安時代末期の1156年、元天皇の崇徳(すとく)上皇と弟の後白河天皇による争いから、天皇を支える摂政、関白を出していた公家の藤原氏、武家の源氏と平氏がそれぞれ分裂して内乱の「保元(ほうげん)の乱」が起きました。呆気なく敗れた崇徳は今の香川…

音楽支えに生き抜く

性同一性障害 「音楽なんて非国民と言われた時代でした」戦後、国内外のオーケストラで活躍した元神戸女学院大教授の八代みゆき(89)。戦時は東京音楽学校(現東京芸大)の学生だった。幼いころから心と体の性が一致しない違和感を抱き、11年前に性別適合手…

夢実現の時にすべてを失った現実

夢中で子育てし、ホッとした時には孫守が始まった。多忙のとき、二人で旅行するのが何よりの楽しみだった。やっと暇を見て国内旅行し、外国に行くのが夢だった。妻が63歳の12月末、この年から年賀状を印刷した。妻には友人に近況を知らせたらと数枚の賀状を…

母子手帳で知った愛

心に響くメッセージとともに、ユーモラスな鬼の絵を描く画家、しの武さんがエッセー「もう、なげかない」(小学館)を出版した。波瀾万丈の半生から生まれた、温かい人生哲学が胸を打つ自叙伝だ。「私は母の顔を知らないんです」と話すしの武さん。実母は、…

人生を変えた言葉

まだ20代初めの頃のことでした。戦争に負けた日本で、働き手のいない旧軍人の家庭は、経済的に苦しく、アルバイトをしながら大学を卒業した後、私は7年間キャリアウーマンとして、アメリカ人相手の職場で働いて家計を助けていました。 4人兄弟の末っ子だった…

「そうかもしれない」

保健所の植え込みの中で震えて鳴いていた「しろ」を拾ってきてからもう11年になる。 その頃私は気分の落ち込むことの多い日々を送っていた。高校と中学に通っていた息子と娘が、自分たちの生活に意味を見いだせず、生きてゆく気力を失いかけているように見え…

迷い

「迷いに迷った挙句、産みました」かわいい赤ん坊を抱いて報告に来た卒業生の顔には、苦しみを経験した人にのみ見られる明るさと、大人びた表情がありました。 中絶をすすめる周囲からの圧力、産むことによって生じる経済的負担、仕事と育児の両立の難しさ等…

障がいを乗り越え 数学を教えたい

私は統合失調症です。19歳の時に診断されました。でも何とか山形大学理学部数学科を卒業し、特別支援学校の臨時講師や光学プリズムの製造所などに勤務しました。 もう51歳。今は実家の農業を手伝っています。このまま一生を終えてもいいのですが、「男子一生…

人間の愚かさ

連日、世間を騒がせる事件が絶えない。一見して他人事のように思いがちだが、誰も彼もがいついかなる時に被害者、加害者になるか知れたものではない。「何を戯けたことを。誰が加害者になるものか」大方の人間は、言下にそう否定するだろう。そして、内に棲…

死ぬということ 生の輪廻の一つ

孤独死の現場に仕事柄よく立ち会います。アパートの一室で人知れず息を引き取り、死後数週間たって発見されました。初老ともいえない若い男性が多いようです。 ほかのNPOの寮から私の運営する寮へ転入された人が、亡くなる数週間前から昼でも夜中でも「おー…

見習いたい母 背を見て育つ

生きていれば120歳になる母は、20歳過ぎで農家に嫁ぎ、8人の子を育てました。物がない時代、12人の大家族を守っていました。育ち盛りの子どもたちを、決して空腹にはさせませんでした。学校から帰るといつも、囲炉裏に焼きおにぎりがあり、醤油の香りが漂っ…

未来を切り拓く鍵

すでに卒業式も終わり、多くの子供たちや若者たちが母校を巣立っていったことでしょう。震災から二年余り、今年は一人一人がどんな想いを胸に巣立っていったのでしょうか。「旅人の 宿りせむ野に 霜降らば 吾が子羽包(はぐく)め 天(あめ)の鶴(たづ)群…

角隠して嫁入り 家族守り大きく

猪苗代町で生まれ育ち、北塩原に嫁いだ。子どもたちが幼い冬、実家の母と嫁ぎ先の義父が入院した。私は長男に嫁いだ責任がある。心で母を思い、義父の看病に通い続けた。入院から半年、義父が亡くなり、主人が母のところに通わせてくれた。その半年後、実母…

母にささげる「ありがとう」

「禽獣(きんじゅう)は 命をかけて 子を護(まも)る 子に報いよと 言う親はなし」。私の近詠である。私が生まれる前、母は4人の子を亡くした。人手がほしい農家で、夫や姑の手前、どんなにつらかっただろう。両親は私に丈夫と名付けた。私は病気で入院した…

生きること 生かされていること

生命科学によれば、人間に生まれてくることは「一億円の宝くじを百万回連続してあてることよりも難しい」のだそうです。「ありがたい」という言葉は、本来、「有る事、存在すること」自体が難しいので「有り難い」という訳ですが、この意味において、人間で…

歩々是れ道場

今日は5歳の誕生日。おぼろげに目を開けると、まばゆい光の中に私の顔を覗き込む3人の顔が見えた。「あっ!起きた!起きた!目、覚ました!」誰彼となく、声が聞こえた。身動きできない身体が、自分の置かれている状況を私に教えた。その時、思うように動か…

罪深い少年期の行為に贖罪思う

人生の終点において、人は誰でも一生の締めくくりをしなければならない。一生を振り返ったとき、反省のない人は皆無だろうが、私にも決して忘れ得ない思い出がある。一つは戦争の殺戮の場であり、もう一つは少年期の行為である。国家権力による戦争参加は誰…

タロとジロに救われた青春

昭和34年1月15日、私にも「成人の日」が来ていました。若者たちの久しぶりの邂逅は、会場を賑やかにしていましたが、お祝いの言葉が始まると、厳粛な雰囲気に包まれていきました。式の途中で、歴史的なニュースが報じられたのです。司会者が「嬉しいニュース…

新たなスタート №30

2008(平成20)年、私は人生最大の冒険に出た。アメリカ大陸横断だった。21歳の時から、長い闘病生活を送り、多くの人々のおかげで元気になった。ところが元気になってみると、もう「老い」を考えなければならない年齢になっていた。これからどのように生き…

老いの孤独 №27

1991(平成3)年の冬、私と母はこたつで、テレビの中の戦争を見ていた。湾岸戦争が始まってからというもの、現地からの情報がリアルタイムで流されてくる。「見たくない」と、母は言った。「大事なニュースだから」と、私は無視して見続けた。その夜だった。…

会津に生きる №24

熱海で過ごした私の体は、発症当時から比べれば、信じ難いほど元気になっていた。平らなところでなら、車いすを一人で操ることができるし、左の腕も役に立つ。一時は痛みに負けて、手も足もいらないと思ったこともあったが、今は心から切断しなくて良かった…

別れ №22

私が彼と出会ったのは、25歳になった春の、症状の極めて悪い時期だった。彼も入院していた。彼は、間もなく退院していったが、その後も、ほとんど毎日訪ねて来てくれた。来られない時には、定刻の午後8時に、決まって看護婦詰め所の電話が鳴った。いつしか私…

苦しみはずっと続かない

「まず、今の苦しさはあなたのせいじゃないということです。一生分の苦労を先取りしていると思っていいし、あまりにつらいなら、逃げてもかまいません」大平さんはそう話して、自分が14歳だったころを振り返った。学校でいじめられたのを苦に、自殺しようと…

出光佐三店主 №20

出光佐三さんは、社内では会長でも社長でもなく「店主」と呼ばれていた。どんなに大きな企業になろうとも、創業時の気持ちを忘れない、との思いだったと聞く。店主が見舞ってくださったベッドで、私は興奮しきっていた。店主の顔がかすんで見えたり、声が消…